例えば、こういう暗号。

特別な知識を使わずとも、日常的にスマホをでフリック入力をしている人であれば、何となくひらめいて正解にたどり着けるのではないでしょうか。

私は、こういう「規則性を見出して正解にたどり着く」系の暗号が大好きです。
「頭の体操」的な。
日常生活で染みついている知識をやルールを手掛かりにして、一見意味不明な文字や絵の羅列を解読していく…


音楽暗号




少し前に、吹奏楽を舞台にしたミステリ小説を読みましてね。
その第5巻の物語内に「音楽暗号」というものが出てきたんです。
謎解きも音楽も好きな私としてはめちゃくちゃ興味がわきました。
どんなものかといいますと。
「ドレミ」をアルファベット等に対応させることで、楽譜上に暗号としてあらわしたものです。
例えばドイツ語では、ドレミ及び#(シャープ)/♭(フラット)をアルファベットで簡単に表すことができるんですよ。
※#:半音(鍵盤1つ分)上がる、♭:半音下がる

ちなみに、イタリア語、英語、日本語はこんな感じです。

ね。
イタリア語や英語では、#や♭をつけると2,3単語になってしまうのに対し、ドイツ語音名の簡単さたるや、もうね。
なので、ドイツ語でドレミの音名を読むことで、以下の楽譜に隠された単語を読み解くことができるんです。



sがある単語はいくつかの出題パターンが考えられます。
しかし、音名だけでアルファベットを表すにも限度があるため、スパイなどの暗号には使われなかったそうで、あくまで「作曲家たちの遊び心」を満たすものだったようです。
でね、私はこれを読んだときに思ったんです。





26→17→8
a~hとsは、先ほど説明したとおりなのでクリアです。

これで9文字埋められたので、あと17文字。
(結論から言うと、残り8文字まで減ります。)
(ちなみに、ここからかなり画像が増えます。読み込みが遅かったらすみません。)
単純にアルファベットと音符を対応させるのはすでに限界なので、切り口を変えてこじつけていきます。
とはいえ、何の縛りも節操もなくこじつけてしまっては、謎解き界隈から怒られそうな気がするので、いくつかルールを設けました。




では、これらのルールを踏まえて、残りの文字を考案していきます。
(結論だけ見たい人はこちら)
まず用意するのはこちら。

これはドイツ語で表すと、

ということは、


これを…
こうっっ!!



はい!
iができました!

こんな感じでドンドン増やしてくよ!
続いてはこちら。
まず、hを5つ用意します。

次に、hを途中まで剥がします。





nができましたね。
残りのhもnにしていきましょう。

あっという間に、計5つのnができました。
これらのうち、右4つのnを…





なんということでしょう。
hからnができただけでなく、そのnからmとrとuができちゃいました。
hはいろんなアレンジが効いて便利ですね。
同じような手法で、もう1文字いけそうな気がします。
用意するのはa。





(まあ、aの見た目ってフォントによって差があるし、2か所切ってもまだaっぽさはあるけども)
oができました!ね!!
はい次!
bを用意します。





はい。bを回転させたらqができました。

ふふ、綺麗にできたかしら。
そこの!鏡を持ってまいれ!

はっ!女王様!

これが…

これが…わたくし…!?

これまでに習得した技を使って、あともう1文字!
サクッといこうぜ!
はいfをご用意!

ぐるんして、

これが…わたくし…!?

ちょんぱ

t完成!!!!

ふぅ…
何とか9文字分できました。


(※文字考案のスタート地点に戻るにはこちら)
これで、計18文字が完成しました。
いや、結構がんばった方よこれ。
あと8文字!!
8→3
(結論だけ見たい人はこちら)
まだドイツ語での音名表現がないかな、他にどんな名称の音楽記号があるかな、などと、
いろいろ手を広げて調べていましたが…


どうやら、既存の暗号をアレンジするのにも限界が来たようです。
更なる切り口を見つけ出せないでしょうか…。




そうか…。
アルファベットとして読むわけではなく、あくまで「見た目が似ている」ものなら…。
ルール②の「文字を文字として読めてしまうものは使わない」には反さない!
(↑何言ってんだ、っていう方は、この後の具体例を読めば分かると思います!)
はっ
そういえば…


この記号、ダブルシャープといいます。
その名の通り、シャープ(=半音上げる)がダブルなので、1音分上げるという意味を持っています。
c→c#→cダブルシャープ(←文字変換できない)という順で半音ずつ上がっていくため、cダブルシャープとdは同じ音を表していることになります。

「じゃあdでいいじゃん」
「ダブルシャープとかいらないじゃん」
と思いますよね。
ただ、楽譜作成のルール上、そうも言ってられないのです。
作曲なり編曲なりする際、「この曲の流れ上、ルール通りならc#が使われるところだけど、半音上げて変化を付けたい」というケースが出てきます。
そういう時にはdと表記するのではなく、きっちり「cダブルシャープ」と表記する必要があるのです。
さてこのダブルシャープ、これそのものはアルファベットとして読めるわけじゃないけど、この見た目はもはや、

xと読めますね。
では複製して…

ちょんぱ






xからvができ、vを2つくっつけることでwができました。
この調子で他の文字も探していくぞ!!
「L 音楽記号」で調べてみると…

…なんと。
「右手で弾いてください」という意味のL字記号がありそうな。
譜面作成ソフトで探したところ、ありました!

小文字と大文字の間みたいな見た目してますが、まあl(Lの小文字)と認識できるので良いでしょう!
「右手で演奏する指示」ということで、両手で鍵盤を鳴らす系楽器限定の記号ではありますが、ルールに反してるわけじゃないので良しとしようね!
同様に、「Y 音楽記号」でも調べてみました。

言われてみれば確かに似てる。

8分休符、割と見たことがある音楽記号なのではないでしょうか。
意味は、「8分音符分の長さだけ休む」です。
じゃあ8分音符って何なのかというと。
それを知るには、楽譜の読み方を理解することから。
まず、楽譜はある程度決まったブロックに区切られていて、それを「小節」と呼びます。

そして、この小節の中に入る音の長さが、ここの数字で表現されています。

例えば、上の4/4の意味は、「1小節に4分音符が4つ入る」ということです。

この「4分音符」は、「4つに分けた音符」という意味合いなのですが、「分けた」ということは「分ける前のフルの音符」があるわけです。

そのフルの音符が「全音符」と呼ばれるものであり、4分の4拍子であれば、全音符1つだけで1小節分を全て埋められます。

4分音符4つなら、「ツーツーツーツー」というリズムになる感じです。
ちなみに、音符の歴史を遡ると、元々は「全音符」から2分割、4分割…というように細分化されてきた経緯があるそうです。
というわけで、全音符を2分割すると「2分音符」となり、

さらに分割すると「4分音符」となり、

さらにさらに分割すると「8分音符」となり…

という感じで、どんどん分割することができます。
し、逆を言えば、細かい音符から倍にすることもできます。

1.5倍などの半端な調整も可能です。
全音符をさらに1.5倍、2倍…にすることもあります。
そして、各音符には対応する休符も存在します。
例えば、全/2分/4分/8分音符の休符は下記の通り。

これ!
この「8分休符」がyに似てるやつ!
さて、これでl,v,w,x,yの5文字を考案できました。


残りはj、k、zですが、この3文字を表せる音楽記号はありませんでした…。
zはあるにはあったのですが、普通にzとして読めるものだったので却下。
ルール②「アルファベットとしてそのまま読める音楽記号は使用しない」に反してしまいますから。

ということで、計23文字の考案に成功!!
お疲れ!!自分!!

(この章のスタート地点に戻るにはこちら)
アルファベット23文字で音楽暗号を作ってみよう!解いてみよう!
さて、どうにかこうにか23文字できたので、暗号を作ってみましょうね。
なお、これまでドイツ語音名で文字を考えてきましたが、暗号の解答は英単語に限定させてもらいます。
(ドイツ語を解答にした問題を作るのが大変だし、読者の方もドイツ語より英語の方が楽ですよね…?)
第1問


正解は…
↓
↓
↓

早見表から拾えばいいだけだったので、簡単だったかもしれませんね。
第2問
では第2問!


早見表は簡素版のみを置いておきます。
解けるかな?
正解は…
↓
↓
↓

解けましたか?
ちなみに、「オーケストラ」は「管・弦・打楽器がしっかり含まれている」管弦楽団を指します。

「吹奏楽やってます」と言うと、オーケストラと勘違いされるのですが、吹奏楽の場合は圧倒的に管楽器が多い編成なので別物なのです。

「オーケストラと吹奏楽って何が違うの?」と思われていた方は、これを機にぜひ覚えてみてください!
第3問

そろそろ慣れてきました?
正解は…
↓
↓
↓

歌ありの曲に対して、伴奏のみのバージョンを「インストゥルメンタル(instrumental)」といいますが、これは「楽器(instrument)のみのバージョン」ということなんです。
音楽暗号の実用例
軽めの暗号なら、作って解くことができました。
これなら、先人たちが叶えられなかった「実用化」も夢ではないのでは…!?
(叶えようとしてなかっただろうけど)
試しに、実用例を考えてみましょう。
実用例①

例の秘密文書のありかを示す暗号はまだか…!

スパイA!
待たせてすまない!

スパイB!
それで、例の秘密文書のありかを示す暗号は手に入れたのか!?

ああ、これなんだが…


これは、音楽暗号だな!

暗号を解くと、こうなるな。
↓
↓
↓


マレット…?

マレットというのはだな…


ああ、なるほど。
これを「切る」?

確か、マレットの中には、先端に毛糸がまかれているものがある。

では、切るというのは毛糸のことか!

この店内にあるマレットの中で…


赤と白の毛糸で巻かれているのはこれだけだ!

ジャキジャキ…
ジャキジャキ…
ジャキジャキ…



片方のマレットから紙切れが!
随分と小さいが、何か書いてあるか…?

ああ。
秘密文書のありかは…あの場所か!
こうして、スパイAとBは無事に秘密文書のありかを特定し、敵の奪取から守ることができましたとさ。
めでたしめでたし。
実用例②

私は佐藤マイ。
ピアノが大好きな高校2年生。
実は、うちの学校の音楽教師である芹沢先生に、密かに思いを寄せてるんだ。
でも、芹沢先生は今日で音楽教師を辞めてしまうの…。

佐藤さん、これまでありがとうございました。
放課後によく音楽の話をして過ごしていたのは、いい思い出ですね。

私の方こそ…!
先生とおしゃべりできる日は、授業が終わるのがいつもよりずっと待ち遠しくて。
明日からもう会えないと思うと、私…。

佐藤さん、この楽譜を受け取ってもらえますか?

え…!?

寂しくなったら、この曲を弾いて思い出して下さい。
これまでの、かけがえのない幸せな時間を。

先生…!
その日の夜。

先生が私のために作ってくれた曲。
大切に弾かなきゃね。


あれ、これは…?


楽譜の最後の方に何か…

↓
↓
↓


…いや、そういう展開求めてないんだわ
振り返り
アルファベット26文字のうち、23文字の考案に成功したことで、実用化の兆しが見えてきました。
日々極秘任務を遂行している皆さん、もしくは秘めたメッセージを送りたいと思っている音楽関係者の皆さん、今回の音楽暗号を使用してみてはいかがでしょうか。
…とはいえ、実用化にはまだまだ課題もあります。
まず、「思いつかなかったアルファベットがあと3文字ある」ということ。
「j」、「k」、「z」を思いついた人がいたら教えてください!
それから、せっかくの「音楽」暗号なのに、「音を出して表現する」ことは難しいんですよね。
だって、例えば下記のような暗号があるとして、

「f」は「ファ」の音を歌や楽器などで出せばいいのですが、「ラの右端を削いだもの(=o)」って、どんな音でしょうかね…?
自分で考案しといて、ほんと、何なんでしょうね。
また、本来#やダブルシャープ、♭などの記号(今回出てこなかったけどダブルフラットなども)は、音符の「左隣」に置かれるものです。

そのため、「右隣に音符が無い(くっつく音符が無い)ダブルシャープ(=x)」は、歌や楽器で表現しようがありません。

ちなみに、こういう記号は他にも…

(えっ、こんなにあんの?)
まあでも、今回で音楽暗号の可能性を広げられた(はず)なので、初の試みにしちゃあ頑張った方じゃないですか?
うんうん、自己肯定感って大事よね。
では、ミリーでした。

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